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【R18・NTR】夏の終わりに、嘘が咲く
【R18・NTR】夏の終わりに、嘘が咲く
Author: みみっく

1話 彼の秘めたる想いと、春の始まり

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-08-29 08:35:58

 春の風が教室にすっと入り込んできた。カーテンが揺れ、埃と光がふわりと舞う。どこか甘いような、それでいて新しい始まりを告げるような匂いが、彼の鼻腔をくすぐった。

 風間悠真は席に着いたまま、窓の方へ目を向けた。校舎の中庭には、見慣れた背中が揺れている。ロングヘアが春の風に踊っていた。まるで一枚の絵画のように、澄川ひよりが教室へ向かって歩いてくる。彼女の足取りは軽やかで、一歩ごとにスカートの裾が優雅に揺れる。

 何度も見たはずの風景なのに、心が少しだけ高鳴る。胸の奥で、微かな鼓動が刻まれていた。中学2年になっても変わらない7人のグループ。小学校からずっと一緒だった彼女も、今もその一部だ。その事実に、安堵のような、しかしそれだけではない複雑な感情が入り混じる。

 だけど――その「好き」は、友達としてじゃない。たぶん、ずっと前から。自分でも気づかないくらい前から、彼女への特別な想いは彼の心に根を張っていた。それは、春の陽光のように温かく、しかし誰にも触れさせられない秘められた感情だった。

 悠真は小さく息をついた。その息は、誰にも言えない熱を帯びていた。誰にも言えないその気持ちは、今日も彼の胸の奥で静かに息をしている。

♢放課後、教室にて

「あれー悠真くん、また窓際で風と会話してるの〜?」

 花城まどかが元気よく笑いながら駆け寄ってきた。明るいオレンジのパーカーが、放課後の光によく映える。長いポニーテールが彼女の動きに合わせて跳ね、教室の空気を一瞬で明るく染めた。まどかの活気に満ちた声が、静かな教室に響き渡る。

「……そう見えたなら、それでいいけど」

 悠真は少し照れたように目線を逸らした。柔らかな黒髪がふわりと揺れ、やや垂れた優しい瞳は、何か言いたげに窓の外へと向けられたままだった。頬に微かな朱が差している。

「彼は喋るより『考える』派だからね」

 結城凛音が隣の席でジャージの袖をまくりながら、ふと口を開いた。バスケの練習帰りだろうか、彼女の額には微かな汗が滲んでいる。ダークネイビーのショートボブの端正さが、クールな雰囲気を際立たせた。その声には、悠真への理解と、どこか親愛の情が込められている。

「風は感情を運ぶから……悠真くんは、風に言わせるんだよね」

 白鷺千代がそっと文庫本を閉じた。彼女の指先が、読みかけのページを優しくなぞる。淡いミントグリーンのカーディガンに、小さな押し花の髪飾り。彼女の声はいつも詩の朗読のように穏やかで、聞く者の心をふわりと包み込む。

「……あ、ひよりだっ!」

 まどかが弾んだ声で指を差した。その声に、悠真の視線が自然と教室の扉へと向かう。扉が静かに開かれ、澄川ひよりがふわりとスカートを揺らして入ってきた。パステルピンクのリボンがついたブラウスが、彼女の可憐さを際立たせる。少し緊張したような微笑みが、彼女の唇に浮かんでいた。

「やっと来たー!遅いよひより、まどか退屈してた〜!」

 まどかの声に、ひよりは申し訳なさそうに眉を下げた。

「ご、ごめん……。歩いてたら、空が綺麗で……」

 ひよりの淡いピンク色の瞳が、夕焼けに染まり始めた空を映すようにぼんやりしていた。その視線の先には、広がる茜色のグラデーション。彼女の心象風景がそのまま空に映し出されているかのようだった。

「俺も空は好きだけど、キミの顔の方が飽きないけどね」

 芹沢煌が教室の隅から軽やかに歩み寄ってきた。軽くウェーブがかかった漆黒のミディアムヘアが、彼の動きに合わせて揺れる。ラフに着崩した制服が、彼のスマートな体型によく似合っていた。いたずらっぽい茶色の瞳が、ひよりを見つめながら悪戯っぽく笑う。その視線には、どこか挑戦的な色が宿っている。

「芹沢……またそういうこと言う」

 ひよりが小さな声で抗議した。その声には、照れと困惑が入り混じっている。抗議しながらも、彼女の頬は微かに赤く染まっていた。そんなひよりの様子を見て、まどかが楽しそうに笑う。

「ね〜ひよりちゃん、顔赤いよ?ひよりもまんざらじゃないのでは〜?」

 まどかの言葉が、悠真の心にチクリと刺さった。悠真は、そっと視線を足元の床に落とした。自分の指先を見つめながら、誰にも聞こえないくらい小さく息をついた。まどかの言葉は、悠真が抱える誤解をさらに深くする。自分だけが知っている、彼女の本当の笑顔を思いながら、胸の奥で複雑な感情が渦巻く。言いたいことは山ほどある。この誤解を解き、彼女への想いを伝えたい。だけど口に出すには、まだ少し早い気がした。

 まどかが煌に向かって、さらにからかうように言う。

「ひよりちゃんってさ〜、煌くんといるとき、めっちゃ笑うよね!もうデキてる説あるんじゃないの~?」

「ちょ、まどか! 変なこと言わないで……!」

 ひよりが慌てて両手を振った。長い栗色の髪がふわりと揺れ、淡い瞳が動揺に潤んだように見えた。その仕草は、まるで自分の秘密を暴かれそうになった子供のようだった。

「俺は真実しか言ってない。笑わせたいから笑わせてるだけだし?」

 煌は肩をすくめて笑った。彼の言葉は、ひよりへの好意とも取れるが、どこか茶化しているようにも聞こえる。いたずらっぽいその表情に、場がふわっと和む。

「くだらない。からかうだけなら他でやって」

 凛音が窓際の机に腰かけながら、軽く煌を睨んだ。その視線は鋭くても、仲間への愛が滲んでいる。彼女のクールな言葉の裏には、仲間を守ろうとする芯の強さがあった。

「……でも、みんなが揃ってるって、やっぱり好き」

 千代がぽつりと呟いた。その声は小さいけれど、教室の空気をやさしく包み込むような響きがあった。彼女の言葉は、まるで一枚の詩のように、彼らの関係性の尊さを表している。

「この教室、いつもよりちょっとだけうるさくて、ちょっとだけ幸せだね」

 ひよりが微笑んでそう言った瞬間――悠真はその笑顔を見て、言葉にならない感情が胸の奥でほどけていくのを感じた。彼女の瞳は、純粋な喜びで輝いている。その輝きは、彼の心に温かい光を灯した。

 それは、彼だけが知っている「好き」のかたちだった。彼の心の中で、その感情は今日も静かに、しかし確かに脈打っていた。

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